SKULLPANDAはKAWSを超えオークションへ? — 『The Feast Begins』(2025.10.31発売)アートトイは「芸術的資産」となりうるか

日にち日記
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追記(2025年10月31日反映):本稿執筆中、POP MARTが新シリーズ『SKULLPANDA The Feast Begins』を2025年10月31日に発売したとの情報が入ってきました。
この新シリーズはこれまでのシリーズをしのぐ妖艶な美しさです。ため息が出るほどですね。
過去、SKULLPANDAは何度もブームを巻き起こし、今も人気は衰えませんが、あのラブブほどのオークションでの高値取引にはいまだ至っていません。
なぜなんだろう。それについて検証します。

 
 
 
 
 
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出典:POP MART 公式Instagram(2025年10月31日投稿)。『SKULLPANDA The Feast Begins』シリーズ発売の告知。公式投稿より抜粋。


I. はじめに:アートトイが直面する「アート」と「トイ」の境界線

Z世代、ミレニアル世代を中心に世界中で熱狂を巻き起こしているアートトイ市場。その中心にいるのが、POP MARTの二大巨頭、LABUBU(ラブブ)とSKULLPANDA(スカルパンダ)です。

彼らのフィギュアは、単なる「おもちゃ」の枠を超え、ファッションアイテム、あるいは投資対象としての側面を持つようになりました。しかし、真の「資産価値」の証明であり、永続的な価値の確立を意味する舞台があります。それが「アートオークション」です。

本稿では、アートトイがオークションに受け入れられるための本質的な要件を、先行するKAWSとBE@RBRICKの事例から分析します。そして、デザイナー熊喵(Xiong Miao)氏が手がけるSKULLPANDAが持つ「芸術的資産」を検証し、ラブブを超えてアートの世界へと昇華するために必要な未来戦略を徹底的に考察します。この考察は、あなたのコレクションが将来的にどのような価値を持つのか、その羅針盤となるはずです。

追記(新作反映):さらに直近の動きとして、POP MARTは2025年10月31日にSKULLPANDAの新シリーズ『SKULLPANDA The Feast Begins』を発売しました。本稿ではこの新作が、SKULLPANDAの「コレクティブル性」と「芸術性」にどのような影響を与えるのか、既存の分析に組み込んで検証します。

II. アートピースの「価値基準」を学ぶ:二つの成功モデル

アートオークションで高額な評価を得る「アートピース」には、単なる人気の高さ以上の厳格な評価基準が存在します。KAWSとBE@RBRICKは、それぞれ異なる戦略でアートトイを成功させた二つの典型的なモデルです。

1. KAWSモデル:芸術性が生む批評的価値

KAWS(カウズ、本名:ブライアン・ドネリー)は、トイという出自を持ちながら、現代アート界で最も影響力のあるアーティストの一人として君臨しています。

KAWSのトイの起源とルーツ

KAWSの作品は、元々はグラフィティやストリートアートをルーツとしています。彼の代表的なキャラクター「コンパニオン」は、当初は限定フィギュアとして販売されましたが、その根底には、彼の純粋な芸術活動があります。

オークション事例と価値の主軸

KAWSの作品は、巨大なキャンバス作品や彫刻がクリスティーズやサザビーズといった主要なオークションハウスで数億円で落札される事例が多数存在します。特に、セサミストリートなどアニメキャラクターなどをオマージュし、その目に「×」を描き加える手法は、大衆文化を解体し再構築する「現代アート」としての批評性を持つと評価されています。

結論:芸術性が価値を駆動する

KAWSの価値の主軸は、あくまでアーティスト個人の「創造性」と「芸術性」です。トイは、彼の確立されたアートを表現するメディアの一つであり、「希少性」は結果としてついてきたものです。彼の成功は、アートトイがアートオークションに登場するには、デザイナーが「アーティスト」として世界的に認められることが不可欠であることを示しています。

2. BE@RBRICKモデル:希少性とブランド力が生む投機的価値

BE@RBRICK(ベアブリック)は、その均一なフォーマットを武器に、アートトイ市場において独自の地位を築きました。

BE@RBRICKのトイの起源とルーツ

BE@RBRICKは、100%から1000%までサイズ展開される、クマ型ブロックタイプのフィギュアです。そのデザインには、フィギュア自体の造形にデザイナー独自の強い芸術的な主張は少なく、むしろコラボレーション相手のデザインを乗せるための「キャンバス」型のトイ(媒体)としての役割を担っています。

オークション事例と価値の主軸

BE@RBRICKの超限定品、特に有名ブランドや著名アーティストがデザインした1000%サイズなどは、中古市場やオークションで高額で取引されます。中には数百万円の値が付くものも存在します。

結論:希少性と限定性が価値を駆動する

BE@RBRICKの価値の主軸は「誰とコラボしたか」という「希少性」と「限定性」であり、コレクティブルとしての側面が強いです。これは、トイそのものの芸術性というより、コラボレーション相手のブランド力や話題性という「付加価値」と、投機的な側面によってその価値が支えられています。


III. SKULLPANDAの立ち位置:秘めたる「芸術的資産」の検証

KAWSとBE@RBRICKの二つのモデルを基準として、SKULLPANDAが現在どのような立ち位置にあり、オークション基準を満たすための資産をどれだけ持っているのかを検証します。

1. デザイナーの芸術的ルーツと深さ

SKULLPANDAのデザイナー、熊喵(Xiong Miao)氏は、単なる「キャラクターデザイナー」ではない、確固たる芸術的なルーツを持っています。

エゴン・シーレと表現主義からの影響

熊喵氏の作品には、オーストリアの画家エゴン・シーレに代表される「表現主義」の影響が強く見られます。シーレは、人間の内面的な葛藤、憂鬱、そして生々しい感情を鋭く描き出しました。SKULLPANDAのどこか憂いを帯びた表情、ゴシック的な世界観、そして身体的なパーツにまで及ぶ独特のデフォルメは、単なる「可愛い」を超えた「感情のリアリティ」を表現しており、
これはまさしくシーレが追求した表現主義に通じるものです。

CGコンセプトデザインという独自性

彼女のキャリアの原点は、CGシーンのコンセプトデザインであり、ゲームの原画デザインにも参加していました。この背景は、SKULLPANDAの作品に「物語性」「世界観の構築力」「卓越した造形力」をもたらしています。
これは、KAWSがストリートアートというルーツを持つのと同様に、SKULLPANDAの作品に現代的な芸術性の裏付けを与えています。

2. シリーズの「コンセプチュアルな深さ」

SKULLPANDAのシリーズは、ラブブや他のキャラクターと異なり、単なるデフォルメや衣装替えに留まらない、非常に概念的「コンセプチュアルな深さ」を持っています。

ダークさとキュートさの「二項対立」の表現

SKULLPANDAの作品は、「死」や「暗闇」といったダークなモチーフと、「キュートさ」や「ファッション性」というポップな要素を同時に内包しています。
この二項対立的な表現は、「生と死」「現実と幻想」といった哲学的なテーマをフィギュアという形式で表現しようとする試みであり、芸術作品としての解釈の余地を広げています。これは、BE@RBRICKの「キャンバス」としての均一性とは一線を画す、作品自体の強い主張です。

IV. SKULLPANDAの立ち位置:未来への分岐点

現在のSKULLPANDAは、「KAWSのような芸術的ルーツ」と「BE@RBRICK」のようなブラインドボックス戦略による希少性(シークレット)という、両方の要素を併せ持ったハイブリッドな存在ではあります。
しかし、アートオークションという最終ステージに立つには、その軸足を「希少性」から「芸術性」へと移行させる必要があります。

追補:『The Feast Begins』が示す短期的インパクト(要点)
芸術性への直接的な貢献は限定的:既存のブラインドボックス中心のリリースは、短期的なマーケティング効果(話題化・売上)には強い一方で、アートオークション市場で評価されるための「一点物性」や「作者の場としての評価」には直ちに結びつきにくい傾向があります。

コレクター熱の再燃:新シリーズの発売は、ブラインドボックス戦略の延長線として短期的な人気と転売熱を生み出します。
POP MARTが多数のバリエーションや限定版を設定していれば、一次販売後の中古市場での価格上昇を促す可能性が高いです。

価値構成要素SKULLPANDAの現状オークション登場への課題
芸術性(KAWS型)デザイナーの芸術的ルーツは確立されているが、作品の形式が「量産トイ」に留まっている。フィギュア形式からの脱却と、アーティスト個人の国際的な地位確立が必要。
希少性(BE@RBRICK型)ブラインドボックス戦略で熱狂を生み出すことに成功。ラブブ同様、コレクター市場での価格は高い。アートオークションが求める「一点物・超高額なファインアート」の実績が不足している。

V. 未来予測:オークション登場への挑戦的戦略

SKULLPANDAがラブブを超えて真のアートピースとしてオークションに登場するために、今POP MARTと熊喵氏が取るべき挑戦的な戦略とはどんなものなのでしょうか。

1. 芸術性を極大化する「KAWS型」戦略の推進

SKULLPANDAがトイの枠を破るには、KAWSが実行した「形式の転換」が必要です。

一点物・大型素材作品の発表

既存のシリーズをテーマにした「ブロンズ(銅像)」や「大理石」など、永続的な素材を用いた彫刻を制作するというのはどうでしょうか。販売数も極端に絞ることで希少性を高めます(全世界3〜10体限定など)。
これらの作品は、ブラインドボックスとは異なる高額帯であるべきだし、オークションや著名な現代アートギャラリーを通じて発表する戦法を取る必要があると思います。

デザイナー「熊喵」の芸術家としての独立

POP MARTのプロモーションとは別に、「熊喵(Xiong Miao)」個人名義で国際的な現代アートギャラリーや美術館での個展をもっと多く企画し、開催する事。
これにより、彼女の作品が持つ表現主義的な深さが、アート評論家や富裕層コレクターに直接評価される場が増えます。

2. 希少性を極大化する「BE@RBRICK型」戦略の進化

コレクティブルとしての価値をオークションレベルに引き上げるためには、BE@RBRICKモデルの戦略をさらに進化させる必要があります。

ハイエンドブランドとの「一点物」コラボレーション

発表タイミングをギャラリー展示や個展と連動させ、アート批評家やコレクター層に直接アピールする。
ブラインド販売の“話題化”に“芸術的文脈”をもたせることが重要になってきます。

単なるキャラクターコラボではなく、世界的なラグジュアリーブランドや、著名な現代アーティストとの「超限定コラボレーション」を実施します。
例えば、オートクチュール素材を用いた世界に一つだけのSKULLPANDAなどを制作し、チャリティオークションなどを通じて価格の実績を作ります。(見てみたい!)

追加提言:『The Feast Begins』発売を踏まえた即効性のある施策

限定モデルに“作家署名”や“シリアルナンバー”を付与することで、転売市場でのプレミアム性を高める。単なる数量限定ではなく作家の署名入りや制作過程を示す付加情報(証明書)をつけることで、ファインアート寄りの評価を促進できる。

新シリーズのハイエンド・バージョンを別途制作(例:作家名義の一点物)。
『The Feast Begins』のテーマやモチーフを転用した一点物があれば、オークションでの試金石にできる。

追記:2025年10月31日に発売された『SKULLPANDA The Feast Begins』は、コレクター市場に新たな流動性と話題を供給します。ただし、今回のようなシリーズリリース単体では、即座にアートオークション市場で高額落札されるための条件(一点物・作家としての国際的評価・ファインアート素材の導入)は満たされない可能性が高いです。
POP MARTと熊喵氏が今後意図的に「アートへの転換」を図るのか、それともコレクティブル戦略を深化させるのかが、SKULLPANDAの中長期的な資産価値を左右します。

VI. 結論:SKULLPANDAの未来の鍵は「芸術的決断」

SKULLPANDAは、ラブブが持つ「愛らしさ」や「ファンタジー」を超え、「人間の内面」というより深い芸術的テーマを内包しています。

KAWSがトイからアートへの階段を駆け上がったように、SKULLPANDAもまた、ブラインドボックスという大衆的な成功を基盤としながら、これからは「フィギュアという形態を壊し、純粋な芸術作品へと昇華させる」という大きなかじ取りをしていく必要があります。

熊喵氏の芸術的ルーツがトイではなく、一点物のファインアートとして世界に認められれば、SKULLPANDAはラブブが到達しえないアートオークションの舞台に立つことができるのだと信じています。


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